フィードバック Feedback
日々、初期研修医の皆さんと一緒に働き、ときにはレクチャーを行うこともありますが、フィードバックをテーマにまとめておきたいと思います。
医学教育に関するエビデンス/概念
・経験豊富なベテラン指導医から学ぶことも臨床現場では多いと思いますが、年次が比較的浅い医師(専攻医など)が教育に不適であるということはありません。
・まずNear-peer teacher(ちょっと上の先輩)が臨床教育上、効果的であることは示されています。Near-peer teacherとは「特定の分野のエキスパートではなく、その分野を自身が学びながら同僚や後輩に対して教育している者」と定義されています。もちろん初期研修医に対する教育にとっての専攻医の存在や、医学生に対する教育にとっての初期研修医の存在もNear-peer teacherに相当し得ます。一例としてですが、実際に外科ローテ中の医学生の満足度は診療に関連した患者数や指導医よりも研修医の指導による影響がより大きかったという報告もあります。
・Near-peer teacherの存在のメリットとしてはEducational distance(学習者との近接性)にあることが示唆されています。このことは「安全な学習環境を提供しやすいこと(質問しやすいなど)」や「より身近なRole modelになりやすいこと(ちょうどよい目標ともいえるかもしれません)」にも関係します。
・心理的安全性は教育現場において重要と感じています。
フィードバックの目的
・フィードバックの目的は学習者の現状と目標とする状態とのギャップをなるべく埋めることにあります。フィードバックによって現状を認識できるようになり、理想の状態に向けてどのように努力をするべきかの方向性がより明瞭になるはずです。
・フィードバックはときに形成的評価とも表現されます。一方で、総括的評価という概念も存在し、こちらは”できるかどうかの判定”に重きが置かれる点で異なります。
フィードバックに関連するモデル
・フィードバックに関連するモデルはいくつかありますが、ここでは以下の2つのモデルをまとめてみます。
<Johari window(ジョハリの窓)>
・画像を参照すると分かりやすいと思いますが、ジョハリの窓というのは自分という存在を、「自分が知っている部分」、「自分が知らない部分」、「他者が知っている部分」、「他者が知らない部分」の4象限に区分するモデルです。
・「両者が知っている部分」を”open”な部分(開放の窓)、「自分は知らないが、他者は知っている部分」を”blind”な部分(盲点の窓)、「自分は知っているが、他者は知らない部分」を”hidden”な部分(秘密の窓)、「両者が知らない部分」を”unknown”な部分(未知の窓)、と呼ばれます。
・blindな部分(盲点の窓)に気づいてもらう手助けをすることがフィードバックといえます。
・ちなみにJohariというのはJoseph氏とHarrington氏との2人で作成したモデルであるために、合わせてJohariと命名されたようです。
(イラストAC フリー素材より利用)
<Conscious competence model>
・こちらは学習者の位置する次元を主に4段階に分ける枠組みです。
・次元が低いところから順に、①無意識的無能(できないことを自覚していない) ②有識的無能(できないことを自覚している) ③有識的有能(意識的にできる) ④無意識的有能(無意識的にできる) と区別します。
フィードバックの3要素
・より有効なフィードバックのためには次の3要素が重要とされています。
- Where am I going?(学習者の目標は何か?)
- How am I going?(学習者はどのようにして目標に到達するのか?)
- Where to next?(学習者がさらに向上するために何をすればよいか?)
・こういった要素を伴わせながらフィードバックを行うためには事前に対話をして、お互いについて理解を深め合うことが大切です。
・また、日頃から良好な関係を築けるようにしておくことも重要で、当然、関係性が不良な状況ではフィードバックをまずしっかりと聞いてもらいにくいはずです。
・そのほかフィードバックはタイミングも重要です。基本的にはフィードバックする事象が生じてから、なるべく早めに行うことがより有効と考えられています。ただ、あくまで原則であり、学習者にとってフィードバックを聞く余裕がない状況もときにはあると思いますので、ケースバイケースで個別性に応じた対応が良いと思います。
・ほかにも相手の個性(キャラクター、考え方など)に合わせて対応することであったり、フィードバックの内容は一回につき一つの内容にすることであったり、と留意するべきポイントがあります。
フィードバックの型
・フィードバックの仕方や型もいくつかあると思いますが、SBIは比較的意識しやすい方法と思います。
・SBIとは①Situation(どのような状況で) ②Behavior(どのような行動が) ③Impact(どんな影響があったか/何がよかったか/何がいけなかったか) のそれぞれの頭文字をとった概念で、これらが網羅されたフィードバックができればより具体性のあるフィードバックになります。
・そのほかにもサンドイッチ法やFAST feedbackなどの型も知られていて、それぞれ一長一短があると思います。
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<参考文献>
・Ramani S, Mann K, Taylor D, Thampy H. Residents as teachers: Near peer learning in clinical work settings: AMEE Guide No. 106. Med Teach. 2016 Jul;38(7):642-55. doi: 10.3109/0142159X.2016.1147540. Epub 2016 Apr 13. PMID: 27071739.
・Xu G, Wolfson P, Robeson M, Rodgers JF, Veloski JJ, Brigham TP. Students' satisfaction and perceptions of attending physicians' and residents' teaching role. Am J Surg. 1998 Jul;176(1):46-8. doi: 10.1016/s0002-9610(98)00108-1. PMID: 9683132.
・Ten Cate O, Durning S. Peer teaching in medical education: twelve reasons to move from theory to practice. Med Teach. 2007 Sep;29(6):591-9. doi: 10.1080/01421590701606799. PMID: 17922354.
・Manthey D, Fitch M. Stages of competency for medical procedures. Clin Teach. 2012 Oct;9(5):317-9. doi: 10.1111/j.1743-498X.2012.00561.x. PMID: 22994471.
・Hattie J, Timperley H. The power of feedback. Review of Educational Reserch. 2007; 77:81-112.