菊池病 Kikuchi disease

ここのところ菊池病が疑われ、SLEの合併も示唆されるようなケースを経験したため、菊池病についてReview article(PMID:37383134)などを参照しながらまとめなおしてみることにしました。

疫学

・1972年に菊池、藤本らから、それぞれ独立した症例の報告がなされ、結果として「菊池・藤本病」と命名されました。その病理所見から組織球性壊死性リンパ節炎とも呼ばれる、良性のリンパ節炎です。現在では「菊池病」と呼ばれることが多い印象で、実際、UpToDateでもページの題目として「Kikuchi disease」という名称が採用されています。

・様々な人種での報告が存在するが、特にアジア人(日本人からの報告も多い)からの報告が多いと考えられています。

・主に20~40歳の若年で発症することが多く、発症時の平均年齢は約30歳です。また、大半が40歳未満とされています。

・男女比についてはいずれも女性に好発するという傾向が示されています(おおむね男:女=1:1~2程度)。ただし、小児においては男児の方が女児よりも好発しやすいという報告もあります。

・病態生理としてはウイルス感染やアレルギー性などが想定されていますが、少なくとも明確には把握されていないような状況のようです。

臨床症状

・典型的な病像としては「発熱+有痛性の後頸部リンパ節腫脹」が急性経過で出現するようなものと思います。

・244例の菊池病のRetrospective literature reviewによると、主な症状としてはリンパ節腫脹(100%)、発熱(35%)、皮疹(10%)、関節炎(7%)、易疲労感(7%)がみられることが知られています。

・そのほか、筋肉痛、関節痛、胸痛、腹痛、悪心/嘔吐、下痢、寝汗、体重減少などの全身症状がみられることもあります。

身体所見

・発熱の持続期間としては1週間程度続きますが、1ヶ月程度続くこともあります(中央値:9日間)。

・高熱(39度以上)、白血球減少などを伴うケースでは臨床経過がより長引きやすい傾向も示唆されています。

・リンパ節腫大の程度としては通常10~20mm大であることが典型的で、圧痛を伴うことが多いです(いわば炎症性病態に特徴的なリンパ節腫大の特徴を有するということだと思います)。

・リンパ節腫大の部位としては片側性の後頚部リンパ節腫大が典型的です(ただし20%では両側性という報告もあります)。そのほか骨盤内リンパ節(47%)、鼡径リンパ節(41%)、腋窩リンパ節(30%)でも所見がみられることもあるため、頸部以外のリンパ節の診察も重要です。

・皮疹に関してはあくまで特異的な所見はないようです。

・前述のRetrospective reviewによると、肝脾腫(3%)がみられることもあります。

合併症

・血球貪食症候群(HPS)、マクロファージ活性化症候群(MAS)、心筋炎、無菌性髄膜炎、小脳障害(振戦や運動失調など)、視神経炎などが報告されています。これらの疾患各論的な内容は本投稿では割愛します。

主な鑑別疾患

・菊池病を疑った際の鑑別疾患は多数ありますが、特に重要な鑑別疾患としては悪性リンパ腫、SLEが挙げられ、病理組織学的にも類似する場合があるとされています。

・そのほかの鑑別疾患として、局所性のリンパ節腫大を呈する疾患群と全身性のリンパ節腫大を呈する疾患群とに二分して挙げるならば以下の通りになると思います。

 <局所性のリンパ節腫大を呈する鑑別疾患群>

 ・猫ひっかき病、皮膚軟部組織感染症(SSTI)、結核性リンパ節炎、麻疹、風疹、溶連菌感染症など

 <全身性のリンパ節腫大を呈する鑑別疾患群>

 ・IMまたはIM様病態(EBV、CMV、HIV)、HBV、HCV、HPV-B19、シェーグレン症候群、サルコイドーシス、血液腫瘍、転移性悪性腫瘍、Castleman病、薬剤性など

臨床検査

 <血液検査>

 ・菊池病に特異的な所見はありませんが、矛盾しない所見は理解しておくとよいと思います。

 ・白血球減少(43%)、異型リンパ球の出現(25%)、血小板減少、汎血球減少などが典型的で、白血球数は基準値内に留まるケースもあります。

 ・CRPおよび赤沈(ESR)は基準値内のこともあるが、ESR>60mm/hr(70%)という報告もあります。

 ・そのほか、軽度の肝機能障害、LDH上昇もみられることがあります。

 <血清学的検査>

 ・必要に応じてEBV、CMV、HIV、トキソプラズマ、猫ひっかき病を想定した検査提出を検討します。

 ・そのほか菊池病ではSLEを合併することもあり、スクリーニング的にANAを提出しておくことも推奨されています。

 <画像検査>

 ・腫大リンパ節について超音波検査を行い、リンパ門などの観察を行うことで良性疾患らしさ、悪性疾患らしさを見積もることができる場合もあります。また、菊池病では結核性リンパ節炎とは異なり、内部の石灰化や壊死が生じにくいとされています。

 ・詳細は割愛しますが、本ReviewではCT、MRI撮像での鑑別ポイントも記載されています。

診断

・菊池病の診断は厳密には病理検査によりなされます。

・あくまで本文献では「早期診断のために、そして不要な検査を避けるため、そしてリンパ腫などの疾患を除外するためにリンパ節生検の実施を優先するべき」という記載がありました。

SLEと菊池病

・菊池病とSLEとは組織学的特徴、好発しやすい年齢、性別などにおいて共通点があります。

・またSLEはときに菊池病に先行することもあれば、合併することもあり、そして菊池病に罹病した後にSLEを発症する場合もあることが知られています。なお、SLE発症前に菊池病を発症(35%)、SLEと菊池病とを同時発症(40%)、SLE発症後に菊池病を発症(25%)という報告もあります。

治療

・疾患特異的な治療法はなく、保存的治療が基本となることが多い。また症状は通常1~6ヶ月で自然軽快することが典型的です。

NSAIDsは発熱やリンパ節由来の疼痛を緩和させるために有効であることが多いです。

・発熱が長引くケース、重症感が強いケース、症状が2週間以上続くケース、再発例などではステロイド全身投与(PSL 1~2mg/kg)の使用なども検討可能です。

予後

・報告により差はありますが、菊池病の3~4%は再発をきたすと考えられています。しかし、多くのケースはSelf-limitedな経過をたどります。

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<読後の感想>

・私の場合、菊池病を想定した際にはSLEの合併可能性を想定してANA、抗SS-A抗体は提出することが多いです。

・前述のように本Review articleではリンパ節生検を早期から考慮するような記載となっていましたが、私の場合は全身状態が許容されるようであれば、発症間もない段階でのリンパ節生検は保留として、アセトアミノフェンあるいはNSAIDsを利用しながら3~4週間程度の経過観察をすることが多いです。それでもなおリンパ節腫大が続くようであれば、切除生検を検討することが多いように思います。

・また発熱の持続期間についての記載の部分ですが、私がこれまで経験した症例から受ける印象よりも短い印象をもちました。

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<参考文献>

・Mahajan VK, Sharma V, Sharma N, Rani R. Kikuchi-Fujimoto disease: A comprehensive review. World J Clin Cases. 2023 Jun 6;11(16):3664-3679. doi: 10.12998/wjcc.v11.i16.3664. PMID: 37383134; PMCID: PMC10294163.

・Sharma V, Rankin R. Fatal Kikuchi-like lymphadenitis associated with connective tissue disease: a report of two cases and review of the literature. Springerplus. 2015 Apr 8;4:167. doi: 10.1186/s40064-015-0925-7. PMID: 25897412; PMCID: PMC4398681.

・レジデント・ジェネラリストのためのリウマチ・膠原病診療(MEDICAL VIEW)

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