成人の麻疹ワクチン接種(キャッチアップも含む)
2024年03月時点で国内での麻疹感染事例の報告が続いています。麻疹ワクチンの接種についての相談が外来でも患者さんからなされることが増えてきた印象もあり、考え方についてまとめておこうと思います。
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麻疹の疫学
・日本は2015年にWHOにより国内に土着したウイルス株の排出に成功したという認定を受けていますが、現在も輸入感染例は散発的にみられています。
ワクチンの定期接種スケジュール
・2006年から定期接種のスケジュールが変更され、MRワクチン2回接種(①生後12~24ヶ月 ②小学校就学前1年間)に変更されています。
・①乾燥弱毒生麻疹ワクチン(武田薬品工業) ②乾燥弱毒生麻疹風疹混合ワクチン(武田薬品工業, 阪大微生物病研究会, 北里薬品産業/第一三共) の2種類が国内では承認済みです。
麻疹ワクチンのキャッチアップ接種
・そもそも「キャッチアップ」とは「年齢ごとに定められた」または「推奨される予防接種スケジュール」を完遂できない人が必要な免疫を獲得するために後からワクチンの接種を受けることを指します。
・麻疹ワクチンのキャッチアップの手順としては①ワクチン接種回数の確認 ②抗体価測定の検討 ③ワクチン接種 という流れも一案と思います。原則として2回接種が確認されていれば、抗体価測定とワクチンの追加接種はいずれも不要とされています。
・キャッチアップが必要なワクチンの見つけ方としては母子健康手帳などの接種記録の確認が第一と思います。そのほか日本プライマリ・ケア学会が運営する「こどもとおとなのワクチンサイト」におけるスケジュール表を参照することも有用と思います。
・ワクチンの2回接種の記録が確認できない場合は抗体価測定の検討が可能です。抗体価については十分とされる明確な指標はないようですが、日本環境感染学会のガイドラインではEIA価 16.0以上であれば追加接種は不要という目安を定めています。
・もしも追加接種の必要性が高いと判断され、追加接種を行った場合には接種後の抗体価測定は不要と考えられています。
生年月日とワクチン接種回数
<1972年(昭和47年)09月30日以前の生まれのケース>
・1回も接種していない可能性が高い年代
<1972年(昭和47年)10月01日~1990年(平成02年)04月01日生まれのケース>
・定期接種としては1回しか接種していない年代
<1990年(平成02年)04月02日~2000年(平成12年)04月01日生まれのケース>
・いわゆる特例措置対象者に相当する年代
・接種率が低かったため、対象時期に2回目の接種を終えていない可能性があります。
<2000年(平成12年)04月02日以降の生まれのケース>
・定期接種として2回接種を受けている年代(ただし2回接種を受けていないケースも存在し、その場合は追加接種が推奨される)
※特例措置とは:
・2008年(平成20)年04月01日から5年間の期間限定で実施された措置のことを指す。
・MRワクチンの定期接種対象者が第3期(中学1年生相当)、第4期(高校3年生相当)にも拡大された。
麻疹ワクチンの禁忌
・麻疹ワクチンは生ワクチンに相当しますので、以下のケースは禁忌です。
- 免疫抑制状態(免疫抑制剤、ステロイドの使用、HIV(CD4<200)など)
- 妊婦
- 輸血、免疫グロブリン製剤を使用して一定期間内(投与後に一定の期間が経過すれば接種可能ですが、ケースによって空けるべき期間について推奨が異なるようです)
・そのほか、生ワクチンに限りませんが、アナフィラキシーの既往があるケースなども禁忌に相当します。
・また生ワクチン接種してから2ヶ月間は避妊が推奨されています。ただし、もしもその期間内に妊娠の成立が確認されたとしても、胎児に影響が生じたという報告はこれまでにないため、中絶などの必要はありません。
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<参考文献>
・レジデントのための感染症診療マニュアル第4版(医学書院)
・こどもとおとなのワクチンサイト(2024年03月20日 閲覧)
・医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版(一般社団法人 日本環境感染学会)
・medicina 成人が必要とするワクチン 2022 vol.59 No.3(医学書院)