急性腸間膜虚血症 Acute mesenteric ischemia
急性腸間膜虚血症(以下AMI(Acute mesenteric ischemia))のマネジメントについてのReview articleがIntensive Care MedicineにおいてPublishされていたため、早速確認してみました(PMID: 38478026.)。AMIと記載すると急性心筋梗塞と紛らわしいですが、本ページにおいては急性腸間膜虚血症を指しますので、ご留意ください。
[toc]
迅速な診断のために知っておくべきこと
・AMIは成人入院患者の0.04~0.07%で診断され, NOMI(非閉塞性腸間膜虚血)の割合は病院により異なる。なお、割合が異なることはNOMIについての認識度による影響かもしれない。
・腸間膜動脈塞栓症では心房細動(AF)などがリスク因子となる。
・腸間膜静脈血栓症では静脈血栓塞栓症の既往などがおリスク因子となる。
・AMIの年齢の中央値:70歳(ただし、もちろん年齢のみで否定は困難)
・AMIを疑うべきケース:
・強い腹痛を自覚しているにも関わらず, 腹部診察所見が乏しいとき(腹壁がソフトなど)
・他の腹部緊急疾患を疑う明確な根拠に乏しいとき
・60歳以上/AFの併存/心血管疾患の併存/重篤感のあるケース など
・Lactateの上昇はAMIを疑わせるものである(ただし上昇がないことはAMIの否定の根拠に利用できない)。
・AMIが疑われるケースにおいては腎機能障害や造影剤腎症(CIN)などのリスクが懸念される状況であっても造影CT撮像を躊躇してはならない。
・NOMIについては造影CTでの血管所見が判然としないこともある。
・造影CTの腸管所見(壊死が疑われるかなど)は開腹手術の必要性を見積もるのにもときに有用。
AMIのマネジメント
・本文のFigure1にAMIの管理について分かりやすい形でまとまっていますので、ぜひ一読ください。
・マネジメントの目標は不可逆的な腸管障害が生じる前に腸管灌流を改善させること。
・腸管切除が必要とされるケースにおいても, 血行再建術はときに重要。ただし、腸間膜静脈閉塞やNOMIにおいては血管内治療の有用性は相対的に小さい。
・腸管粘膜が壊死に至っている場合は腸管切除が必要。
・NOMIにおいては血管拡張薬が使用されることがある。ただし、血管拡張薬の投与タイミングや、全身管理における循環作動薬の併用などに関して明確な指針は現時点までには明らかとなっていない部分もある。NOMIにおいて手術を要するかどうかは腹部所見のほか、乳酸値、臓器障害などを総合的に勘案して決定されることがある。
・虚血状態にある腸管の仕事量を減らすためにも経口摂取/経腸栄養は中止が基本となる。
・抗血小板療法、抗凝固療法に関してはAMIのタイプによって異なる。たとえば腸間膜静脈閉塞症においては抗凝固療法が一般的に推奨される。
・抗菌薬は腸管切除をするケースにおいては全例で行うべきである。ただし、非切除のケースにおいては明確な指針はない。
AMIの予後
・AMIの死亡率は高く、報告により差はあるが生存率は約50%である。
・AMIのサブタイプで比較すると、NOMIの死亡率が最も高く、腸間膜静脈血栓症が最も低い。ただし、実臨床ではサブタイプの鑑別が判然としないこともある。
<読後の感想>
・「強い腹痛の割には腹部診察所見に乏しい場合は病因として血管性を考える」という臨床Tipsは初期研修医に対する日々の指導でも説明することはありますが、やはり重要であることを再認識できました。
・NOMIは動脈硬化と必ずしも関連しないという記載が私にとっては意外性がありました(「必ずしも」という表現を借りれば、どんな事象も真にはなり得るとは思いますが)。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<参考文献>
・Reintam Blaser A, Coopersmith CM, Acosta S. Managing acute mesenteric ischaemia. Intensive Care Med. 2024 Mar 13. doi: 10.1007/s00134-024-07363-1. Epub ahead of print. PMID: 38478026.
・Reintam Blaser A, Mändul M, Björck M, Acosta S, Bala M, Bodnar Z, Casian D, Demetrashvili Z, D'Oria M, Durán Muñoz-Cruzado V, Forbes A, Fuglseth H, Hellerman Itzhaki M, Hess B, Kase K, Kirov M, Lein K, Lindner M, Loudet CI, Mole DJ, Murruste M, Nuzzo A, Saar S, Scheiterle M, Starkopf J, Talving P, Voomets AL, Voon KKT, Yunus MA, Tamme K; AMESI Investigators (Collaborators). Incidence, diagnosis, management and outcome of acute mesenteric ischaemia: a prospective, multicentre observational study (AMESI Study). Crit Care. 2024 Jan 23;28(1):32. doi: 10.1186/s13054-024-04807-4. PMID: 38263058; PMCID: PMC10807222.