球麻痺/仮性球麻痺

球麻痺の総論

球麻痺(Bulbar palsy)延髄に由来する脳神経(主に第9~12脳神経)の障害によって生じる症候群であり、通常、下位運動ニューロン(LMN)の障害により生じる。

・一方で上位運動ニューロン(UMN)の障害によって生じるのが仮性球麻痺/偽性球麻痺(pseudobulbar palsy)であり、臨床所見が異なる。

・1837年にMagnusが多発脳梗塞患者における仮性球麻痺の症例を初めて報告したとされている。

球麻痺と仮性球麻痺の鑑別

・球麻痺と仮性球麻痺はいずれも発声、嚥下、構音などの機能において障害をきたすが、その原因疾患や身体所見においては差異がある。

球麻痺では咽頭反射が減弱するが、軟口蓋反射は保たれやすい。嚥下5期モデルにおける口腔期、咽頭期が侵され、一般的には液体よりも固形物の方が嚥下しにくくなりやすい

・それに対して、仮性球麻痺では咽頭反射は保たれやすいが、軟口蓋反射は侵されやすく、嚥下障害は初期には目立たないこともあるが、徐々に液体(流動物)で嚥下しにくくなる

・球麻痺はLMNの障害であるため、舌萎縮や線維束攣縮(Fasciculation)、反射減弱を伴うことが特徴である。一方で、仮性球麻痺はUMNの障害であるため、線維束攣縮などは一般的に認められず、病的反射などが陽性となることがある。

・仮性球麻痺では延髄以外の部分の障害による所見(例: 情動失禁, 病的反射, 認知機能障害, 排尿障害)が認められやすい。

・必ずしもクリアカットに区別はできないが、大まかな違いとしては以下の表のとおりである。

球麻痺と仮性球麻痺の原因疾患

・ALSは球麻痺と仮性球麻痺のいずれも生じ得る点で一線を画する疾患である。

・仮性球麻痺では両側の皮質延髄路障害の存在が基本となるため、病変は大脳半球の深部に及ぶ疾患などが主な原因となる。

・一方で、球麻痺では脳幹や末梢神経、筋疾患などのLMN障害をきたす様々な疾患が関与し得る。

 【球麻痺の原因疾患例】

<神経変性疾患>

・筋萎縮性側索硬化症(ALS)

・脊髄性筋萎縮症(SMA)

・Kennedy-Alter-Sung症候群/球脊髄性筋萎縮症(SBMA)

・多発性硬化症

<脳幹病変>

・延髄梗塞(延髄外側症候群を含む)

・延髄出血

・延髄空洞症

・Chiari奇形

・延髄-橋腫瘍

・脳幹脳炎

<末梢神経病変>

・ギラン・バレー症候群(GBS)/ミラーフィッシャー症候群(Miller Fisher症候群)

・慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)

・多発単神経炎(例: 糖尿病ニューロパチー)

<筋疾患>

・重症筋無力症(MG)

・筋ジストロフィー

・ポリオウイルス後遺症/脊髄前角炎

<感染症>

・ボツリヌス中毒

・ジフテリア

・ライム病

・破傷風

・帯状疱疹

<代謝性/中毒性>

・鉛中毒/ヒ素中毒など

・ポルフィリン症

【仮性球麻痺の原因疾患例】

<神経変性疾患>

・筋萎縮性側索硬化症(ALS)

・多系統萎縮症(MSA)

・進行性核上性麻痺(PSP)

・アルツハイマー型認知症(進行例)

・多発性硬化症

・パーキンソン病(PD)

<脳血管障害>

・多発ラクナ梗塞

・ビンスワンガー病(Binswanger病)

・橋出血

<感染症>

・神経梅毒

・進行性多巣性白質脳症

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<参考文献>

・Yunusova Y, Plowman EK, Green JR, Barnett C, Bede P. Clinical Measures of Bulbar Dysfunction in ALS. Front Neurol. 2019 Feb 19;10:106. doi: 10.3389/fneur.2019.00106. PMID: 30837936; PMCID: PMC6389633.

・Pseudobulbar palsy-StatPearls(最終閲覧: 2025/04/17)

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