慢性副鼻腔炎 chronic rhinosinusitis
慢性副鼻腔炎とその疫学
・慢性副鼻腔炎(CRS: chronic rhinosinusitis)は鼻腔と副鼻腔における慢性炎症性疾患であり、症状が少なくとも12週間以上つづく点で急性副鼻腔炎(ARS)と区別される。
・鼻ポリープ(鼻茸)を伴う場合とそうでない場合とがある。
・地域により有病率は異なるが、欧米での有病率は一般人口の5~15%程度と推定されている。
・鼻茸を伴わない慢性副鼻腔炎は女性に好発する(男女比=1:2)。また、その有病率は年齢とともに増加し、60歳を超えると横ばいとなるとされている。
・鼻茸の有無を評価するためには鼻咽腔ファイバーを要するため、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の有病率などははっきりしていない。
病態生理/病因
・鼻茸を有する慢性副鼻腔炎と、そうでない慢性副鼻腔炎では病態生理学的機序が異なる可能性が示唆されている。鼻茸は慢性炎症と上気道における好酸球および好中球の浸潤を反映している多因子によって生じる疾患である。また鼻茸は直接的な機械的閉塞の原因となり得る。
・副鼻腔炎の進行は特に上顎洞の開口部分の閉塞に起因する粘液貯留とそれに続発する感染により惹起されている可能性が示唆されている。
・ただし、発症には様々な素因が関係していて、例えば慢性副鼻腔炎は喫煙者でより罹患率が高いことが知られている。
・また嚢胞性線維症(CF)のような繊毛機能不全を伴う病態では副鼻腔のドレナージ能を低下させ得る。実際、嚢胞性線維症患者の最大40%で鼻茸がみられる。
・慢性副鼻腔炎にはアレルギーが関与していることが一般的であり、繊毛機能障害にアレルギー疾患による鼻粘膜腫脹が一部関連していることが示唆されている。また、アトピー性皮膚炎を有する場合には慢性副鼻腔炎の発症リスクが高まることを示唆するReviewも存在する。
・またNSAIDs不耐症でも鼻茸を合併しやすいことが知られている。
臨床症状
・慢性副鼻腔炎は急性副鼻腔炎よりも症状がより多彩で、また症状はより軽微な傾向にある。
・慢性副鼻腔炎と、繰り返す急性副鼻腔炎とを区別することが臨床的に重要である。
・慢性副鼻腔炎の主な臨床的特徴としては、鼻閉、鼻汁、後鼻漏、顔面痛/顔面の圧痛、頭痛、嗅覚低下が挙げられる。その他の症状としては咽頭痛、咳嗽、倦怠感、発熱などもみられる。また、耳痛、口臭、睡眠障害などの症状もときに慢性副鼻腔炎にみられる。
・病歴聴取では喫煙歴、アレルギー歴、喘息歴、NSAIDs不耐症らしい病歴、鼻の手術歴なども含めて行う。
慢性副鼻腔炎と顔面痛
・顔面痛を自覚する患者はしばしば自身で副鼻腔の問題を疑って受診するが、この場合、副鼻腔炎が原因であることは稀とされている。
・実際、前向き研究では副鼻腔から膿性粘液分泌を伴う患者のほとんどで顔面痛を自覚していないことが示唆されている。また、鼻茸を有する患者では顔面痛、顔面圧迫感を生じる可能性が比較的高いが、病因としては神経性のものが想定されている。
・したがって、鼻症状が認められない限り、顔面痛のみで慢性副鼻腔炎を疑うことは不十分である。また、同様に頭痛のみを自覚している患者においても慢性副鼻腔炎である頻度は低い。
診断
・多くのケースは臨床症状に基づいて臨床診断がなされる。そのほか鼻咽腔ファイバーで鼻茸などを確認することで診断の質を向上させられるかもしれない。
・重症度判定にはVisual analogue scale(VAS)やsino-nasal outcome testなどが知られる。VASでは0~3点の場合はmild、3~7点の場合はmoderate、8~10点の場合はsevereと判定される。
・アレルギー症状を有する場合にはアレルギー関連検査もときに検討される。
画像検査
・海外の一部のガイドラインでは副鼻腔X線撮影の使用を推奨されておらず、診断根拠にはならないことが示されている。
・慢性副鼻腔炎はあくまで臨床診断によるところが大きく、ルーチンのCT撮像も推奨されない。また、無症状の方の最大20%でCT撮像により副鼻腔の異常所見が認められることが知られている(偽陽性)。CT撮像は主に腫瘍性病変が疑われるケースや診断の補助として使用されることがよい。
マネジメント
<ステロイド点鼻>
・慢性副鼻腔炎の治療の第一選択としてはステロイド点鼻が挙げられている。
・ステロイド点鼻により鼻粘膜における好酸球活性が低下し症状を改善させる可能性が示唆されている。
・鼻中隔弯曲症やアレルギー性疾患などの基礎疾患が併存するケースではそれらを適切にマネジメントするべきであり、具体的には鼻中隔手術、アレルギー検査、アレルギー治療などが挙げられる。
・特に鼻粘膜腫脹を伴う慢性副鼻腔炎ではステロイド点鼻で薬剤が患部に届く量が限定的となってしまうことがある。現状、液体製剤とパウダー製剤とで優劣性は明らかとなっていない。
・1年以上使用しても有害な影響を及ぼすことはほとんどなく、比較的安全に使用可能といわれている。
<経口ステロイド>
・重症の慢性副鼻腔炎では短期間の経口ステロイドの有効性が示唆されている。
・推奨される特定のレジメンは存在しないが、一般的にはPSL 25~50mg/日で、2週間程度使用されることがある。
・経口ステロイドは全身性の副作用が懸念されるため、その役割は限定的である。
<生食による鼻洗浄/局所血管収縮薬(点鼻)>
・コクランレビューでは生食による鼻洗浄(鼻うがい)は慢性副鼻腔炎に対する治療法として有効で、忍容性も高いとされている。ただし、その有効性はステロイド点鼻よりは小さく、あくまで補助療法と位置づけられている。
・急性副鼻腔炎に対して短期間に限定して血管収縮薬を使用することは有効であるが、長期的な使用により薬剤性鼻炎が顕在化することもある。したがって、あくまで使用は短期間に限定することがよい。
<抗菌薬>
・ステロイド点鼻および生食による鼻洗浄に対して良好は治療反応性がみられない慢性副鼻腔炎に対してはマクロライド系抗菌薬の長期使用(12週間)が行われることがある。
・ただし、マクロライド系抗菌薬の有効性が認められた研究は限られていて、特に血中IgE値が低値のケースでその傾向が顕著であった。
治療期間/耳鼻咽喉科への紹介
・慢性副鼻腔炎に対するステロイド点鼻に関する最適な治療期間についてコンセンサスは得られていない。
・プライマリケアでは慢性副鼻腔炎に対する治療を開始し、4週間後に治療効果を再評価することが推奨される。症状が改善していれば、治療を継続することができる。
・4週間経過しても症状の改善がみられない場合には耳鼻咽喉科への紹介が検討される。
手術
・内視鏡下副鼻腔手術(FESS)は慢性副鼻腔炎に対して広く実施される主な手術方法である。薬物治療が奏功しない慢性副鼻腔炎に対して、FESSは比較的安全で有効な治療法とされている。顔面痛や鼻閉に効果的であるが、嗅覚低下や後鼻漏に対しては効果が乏しいとされている。
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<参考文献>
・Ah-See KL, MacKenzie J, Ah-See KW. Management of chronic rhinosinusitis. BMJ. 2012 Oct 30;345:e7054. doi: 10.1136/bmj.e7054. PMID: 23111434.
