免疫性血小板減少症 ITP
免疫性血小板減少症:総論
・免疫性血小板減少症(ITP: immune thrombocytopenia)は、血小板減少を特徴とする自己免疫疾患である。
・無症候性で発症する場合もあれば、軽度の粘膜や皮膚の出血から生命を脅かすような出血を呈する場合もある。
・ITP患者のうち、重篤な出血で発症するのは5%にとどまるが、診断から5年以内に出血のため入院を要する患者は約15%にのぼる。
・出血の有無にかかわらず、ITP患者はしばしば倦怠感やQoL低下を自覚する。
・また、ITP患者における静脈血栓塞栓症(Venous Thromboembolism, VTE)のリスクは、一般集団と比較して約2倍高い。出血リスクが併存するため、VTEの管理は特に困難となる。
・ITPは原発性の場合もあれば、他の疾患により二次的に生じる場合もある。
・ITPの発症率は、年間人口10万人あたり2〜4例とされる。
・発症のピークは2つあり、1つは20〜30歳代(女性優位)、もう1つは60歳以降(性差なし)である。
・一部の患者では、ITPが一度きりのエピソードで寛解するが、成人では最大70%が慢性ITPへ移行する。
・自然寛解や治療による寛解は、診断から数年経過してからも起こり得る。
・ITPの病態生理は複雑で、いまだ完全には解明されていない。従来の概念では、血小板が自己抗体により被覆され、脾臓や肝臓においてFcγ受容体を介して早期に破壊されると考えられている。
・しかし、ITP患者の最大50%では抗血小板抗体は検出されず、別の破壊機序の存在が示唆される。
・T細胞の異常も報告されており、ヘルパーT細胞(Th細胞)のTh1およびTh17優位への偏りや、制御性T細胞(regulatory T cells)の数および機能の低下が自己免疫反応を促進する可能性も指摘されている。
ITPの主な鑑別疾患
①偽性血小板減少症(Pseudothrombocytopenia):
・通常は症状がなく、検査上の偽陽性である
・末梢血塗抹(末梢血スメア)で血小板凝集を認める
・クエン酸Naやヘパリンなどの抗凝固剤が含まれた採血管で再検してみることが重要
②腎疾患・肝疾患:
・症状・身体所見・臨床経過から判断
・腎機能・肝機能検査、腹部画像(肝・脾を含む)で評価
③骨髄異形成症候群(MDS)、急性白血病:
・他の血球減少がみられ、末梢血塗抹標本の異常を伴う
・末梢血塗抹標本の確認、骨髄穿刺・生検、フローサイトメトリー、染色体検査が検討される
④再生不良性貧血:
・汎血球減少を伴う
・骨髄穿刺・生検、染色体検査が検討される
⑤遺伝性血小板減少症(例:ベルナール・スーリエ症候群、MYH9関連疾患)
・若年発症で家族歴を有することがある
・異常な血小板サイズや形態、好中球異常、腎疾患や難聴の合併もみられる
・末梢血塗抹標本、平均血小板容積(MPV)の確認、遺伝子検査が検討される
⑥血栓性血小板減少性紫斑病(TTP):
・神経症状などを伴う
・破砕赤血球(schistocytes)、LDH上昇、ハプトグロビン低下、ADAMTS13活性低下、直接クームス試験陰性の溶血性貧血が認められる
⑦ヘパリン起因性血小板減少症(HIT):
・ヘパリン使用歴を確認する
・HIT抗体、血小板活性化試験などが検討される
ITPの二次的原因
①薬剤性:
・新規薬剤使用後でないかを確認する。被疑薬としてキニーネ、アセトアミノフェン、アブシキシマブ、カルバマゼピン、リファンピシン、バンコマイシンなどが代表的。
②リンパ増殖性疾患(例:CLL、ホジキンリンパ腫):
・体重減少、寝汗、リンパ節腫大、脾腫などを確認する
・血算、末梢血フローサイトメトリー、骨髄検査、蛋白電気泳動、画像検査(腹部・胸部・頸部)が検討される
③免疫不全症候群(例:CVID、自己免疫性リンパ増殖症候群):
・低γグロブリン血症、血球減少、感染症(特に呼吸器や副鼻腔)、大腸炎、リンパ節腫大、脾腫などを確認する
・免疫グロブリン定量、リンパ球サブセット検査、遺伝子検査などが検討される
④感染症(例:HIV、HBV、HCV、サイトメガロウイルス、EBウイルス、ピロリ菌)
⑤その他の自己免疫疾患(例:SLE、関節リウマチ、抗リン脂質抗体症候群):
・関節痛・関節炎、脱毛、光線過敏、口内炎、皮疹、血栓症などを確認する
・抗核抗体、リウマトイド因子、抗CCP抗体、抗リン脂質抗などを確認する
⑥エヴァンス症候群(Evans syndrome):
・血小板減少+直接クームス試験陽性の溶血性貧血が認められる
・末梢血塗抹標本、ハプトグロビン、LDH、直接クームス試験を検討する
診断
・ITPは、他の血小板減少症の原因を除外した上で、血小板数が10万/μL未満である場合に診断される。
・病歴聴取(薬剤使用歴の確認を含む)、身体診察、血液検査が、他の血小板減少症の原因を除外し、ITPの二次性原因を評価するために重要である。
・ITP患者の末梢血塗抹標本(末梢血スメア)では、血小板数の減少がみられるが、その他の異常(破砕赤血球や異形成など)は認められない。巨大血小板が認められる場合もあるが、これはITPに特異的な所見ではない。
・ITPの診断に特異的な検査は存在しない。ITP患者のうち、抗血小板抗体(PAIgG; platelet-associated IgG)が検出されるのは50〜60%にとどまり、そのため抗体検査は診断のためには必須ではない。
・骨髄検査も、ITPの診断には有用ではなく、他の血液学的異常がある場合や、治療に十分な反応が得られない場合に限って実施される。
活動性出血に対する治療
・ITPの治療目標は、活動性出血を止め、将来の出血リスクを低減することである。
・重篤な活動性出血がある場合には、緊急的な治療が必要である。
・具体的な対応としては、抗凝固薬や抗血小板薬の中止、血小板輸血、副腎皮質ステロイド、静脈内免疫グロブリン投与(IVIG)などが挙げられる。ただし、これらの治療の多くは小規模な観察研究に基づくものであり、ランダム化試験のデータは乏しい。
・血小板輸血は出血を制限するのに有用だが、その効果は数時間と短く、必要に応じて繰り返し輸血する必要がある。血小板輸血を単独で行うのではなく、IVIGやステロイドと併用することが推奨される。
・IVIGは約80%の患者で1〜4日以内に血小板数を上昇させるが、その効果は通常1〜2週間と短期間である。IVIGは、重篤な活動性出血がある患者や、血小板数が1万/μL未満で重篤な出血リスクが高い患者に使用される。
・IVIGとステロイドを併用すると、IVIG単独よりも持続的な反応が得られる場合がある。
・生命を脅かす状況では、さらなる追加治療が必要になることもある。
・抗線溶療法(トラネキサム酸)は粘膜出血の止血に有用であり、月経過多にはホルモン療法が使用できる。
将来的な出血イベントを予防するための治療
・無症状または軽度の粘膜や皮膚の出血のみの患者においては、治療の要否は将来の出血リスクと患者の希望に基づいて判断することとなる。
・しかし、ITP患者において将来の出血リスクを予測することは難しい。
・いくつかのリスク層別化のためのスコアリングツールが開発されているが、いずれも複雑であり、十分な大規模検証が行われていないため、臨床現場での実用性は限定的である。
・血小板数が2〜3万/μL未満の場合、しばしば治療適応となる。この基準は、血小板数2.5〜5万/μLの患者では1年以内での入院を要する出血リスクが2.5倍、血小板数2.5万/μL未満では7倍に上昇するという報告に基づいている。しかし、治療方針を決定する際は、以下のような他の出血リスク因子も考慮する必要がある。
- 高齢(例:65歳以上)
- 出血歴
- 抗凝固薬・抗血小板薬の併用
- 腎機能障害などの併存疾患
- 日常生活での外傷リスク
・一般に、抗凝固薬や抗血小板薬を使用している患者では、血小板数5万/μL以上を維持するための治療が推奨される。
ステロイド
・副腎皮質ステロイドは、ITP患者の標準的な初期治療である。よく使用される2つのレジメンは以下の通りである。
・ITP患者の60〜80%がステロイド治療に初期のち治療反応性を示すが、治療終了後に持続的に寛解を維持できる成人患者は30〜50%にとどまる。
・一部の研究ではステロイドの継続使用が長期寛解率の向上と関連しているとされるが、副作用のため、長期投与は推奨されない。
脾摘
・脾摘術は、現在でも最も有効なITP治療法とされる。
・システマティックレビューによれば、60〜70%の患者で長期的な寛解が得られる。ただし、近年は有効な薬物療法が増えたこと、脾摘術の合併症リスク、どの患者が反応を示すかを事前に予測できないことから、脾摘術の適応は限定的である。
・一般的には、以下の場合に脾摘術が考慮される。
- 標準的な薬物療法に反応しない、または副作用のため使用できない場合
- 診断から少なくとも1年が経過し、寛解に至る可能性が低いと判断される場合
・短期的な脾摘術のリスクとしては、手術・術後合併症、特に静脈血栓塞栓症や敗血症が挙げられる。腹腔鏡下脾摘術は、開腹脾摘術に比べて術後死亡率や合併症が少なく、回復も早いとされている。ただし、術後すぐの静脈血栓症リスクは血栓予防策によりある程度軽減できるものの、ITP患者においては、脾摘術後も長期的に静脈血栓症リスクが2〜4倍に上昇することが疫学研究で示されている。
・脾摘術を受けた患者は、莢膜を有する細菌(特に肺炎球菌、髄膜炎菌、インフルエンザ菌)による感染リスクが高まるため、ワクチン接種が必要となる。大規模なレジストリ研究では、脾摘術を受けたITP患者は、受けていない患者と比べて早期および晩期の敗血症リスクが高いことが示されている。
・また、脾摘術を受けた患者では、冠動脈疾患、脳卒中、慢性血栓塞栓性肺高血圧症など、他の血管系合併症の発生率が高いとする報告もあるが、これらの結果には一貫性がない。一方、ある研究では、脾摘術後1年間の死亡率には有意差がなく、1年以降の死亡リスクは脾摘術を受けたITP患者でむしろ低下することが示されている。
・高齢で虚弱な患者では、術後合併症のリスクが高まるため、脾摘術は一般に推奨されない。また、二次性ITPの患者では、反応率が低く、有害事象が多いため、脾摘術は行われないことが多い。
その他の治療
・トロンボポエチン受容体作動薬やリツキシマブなどが使用されることがある。
・ここでは詳細は割愛する。
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<参考文献>
・Cooper N, Ghanima W. Immune Thrombocytopenia. N Engl J Med. 2019 Sep 5;381(10):945-955. doi: 10.1056/NEJMcp1810479. PMID: 31483965.