成人学習理論-アンドラゴジー・自己主導学習・変容学習-

成人学習理論

・全ての成人に当てはまる単一の学習理論は存在しない。

・具体的にはアンドラゴジー(andragogy)、自己主導学習(self-directed learning)、変容学習(transformational learning)などが挙げられる。

自己主導学習

・成人の学習の約70%自己主導学習であり、約90%の成人が年に少なくとも1回は自己主導的な学習プロジェクトを行う。

自己主導学習(SDL; self-directed learning)とは、学習者が他者の助けを借りず、自ら学習経験の計画・実行・評価を行うプロセスである。 

学習内容・方法・資源・評価を決定する主体が学習者本人である点が自己主導学習の特徴である。学習者はニーズを特定し、目標を設定し、適切な資源を選び、学習計画を実行し、その結果を評価する 

・自己主導学習の利点は、日常生活の中で学習を取り入れやすく、学習者の都合や学習スタイルに合わせて行えることである。インターネットでの情報検索などの個別活動から、専門家や仲間とのやり取りまで幅広く含まれる 

・一方、基礎的な読み書き能力が低い成人などは、自立性・自信・内発的動機付け・資源の不足によりSDLが困難になる場合がある 

・Brookfield (1985) は、すべての学習者がSDLを好むわけではなく、SDLに取り組む成人の多くが教員主導のプログラムにも参加していると指摘している 。

・教員は学習者の思考過程や戦略への気づきを支援し、学習の成功を示す多様なアウトカムを提示することで、SDLの継続と定着を助ける  

アンドラゴジー(andragogy)

アンドラゴジーはMalcolm Knowlesが成人の学習特性と児童の学習特性との差異を明らかにするために提唱した概念である 

・Knowlesは成人学習者について以下の前提を掲げた 。

  1. 成熟に伴い、依存(dependency)から自己主導性(self-directedness)へ移行する
  2. 蓄積された人生経験(experiences)を学習に活用する
  3. 新たな社会的・人生の役割を担うときに学習へのレディネスが高まる
  4. 問題中心(problem-centered)であり、新たな学びを即座に応用したいと考える
  5. 外的動機付け(external motivation)ではなく内発的動機付け(internal motivation)によって動かされる

・これらの前提に基づき、Knowlesは成人教育者に対して以下の実践を提案している 

  • 協調的(cooperative)な学習環境を設定する
    • 学習者の具体的ニーズと関心を評価する
    • ニーズ・関心・スキルレベルに基づいた学習目標を設定する目標達成のための順序立てられたプランを設計する学習者と協働して教育法、教材、リソースを選択する
    • ③学習経験の質を評価し、必要に応じて調整を行う

・成人は「なぜ学ぶのか」を知る必要があるため、教育者は学習の目的を明示し、暗記ではなく実行可能な課題(tasks)に焦点を当てるべきである。

・また、成人は問題解決者(problem-solvers)であり、学んだことを即時に日常生活の問題に適用(immediate use)したいと考えるため、実際的な事例を用いた指導が効果的である。

・アンドラゴジーには批判もあり、Brookfield(2003)は「文化を無視(culture blind)している」と指摘し、自己主導学習(self-directed learning)や教師を学習の促進者(facilitator)とみなす考え方が、教師を主要な知識源とする文化的価値観を軽視する可能性を論じている。

変容学習(transformational learning)

変容学習は、メジロー(Mezirow)により提唱された学習理論で、個人の価値観や考え方を変容させる学習を指す。

・例えば、英語学習者は、新しい言語でのコミュニケーションに自信を得ることで米国文化に対する見方や自己像が変化したと報告する。

・Mezirow(2000)は、変容学習を合理的プロセス(rational process)と捉え、個人が自己の前提を振り返り、価値観が変化すると説明する。この過程では、参加者が互いの前提を批判的に検討し、完全かつ正確な情報に基づき、受容(empathy)と信頼(trust)のある環境で議論することが重要である 

・Mezirowの理論は、学習が生じる文化的・歴史的文脈や個人の人種(race)、階級(class)、性別(gender)の影響を十分に考慮していないとの批判や、感情(feelings)、人間関係(relationships)、文脈(context)、時間的側面(temporal aspects)を無視しているとの批判がある 

・変容学習を促進するために教育者ができることは以下のとおりである。

  1. 教師は信頼、共感、誠実であることを示し、即時的で建設的なフィードバックを提供する
  2. 参加と協働を促す活動を導入し、批判的思考と問題解決を支援する
  3. 学習者の特性に応じた学習活動を選択する:論理的思考を好む学習者にはケーススタディ、ディベート、批判的質問(critical questioning)、理論分析を、対立を避けたい学習者には和やかなグループ(harmonious groups)による議論を、経験型学習者(experiential learner)にはフィールドトリップ(simulations)、直感型学習者(intuitive learner)には想像力を活かしたゲームを活用する。

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