原発性中枢神経血管炎 PACNS: Primary Angitis of the Central Nervous System
<原発性中枢神経血管炎とその疫学>
・原発性中枢神経血管炎(以下PACNS: Primary Angitis of the Central Nervous System)は脳および脊髄に限局して発生する血管炎で、小・中血管を主に障害する。
・ミネソタ州のデータであるが、PACNSの年間発症率は100万人あたり2.4例とされる。
・男女差はほとんどない。
・死亡率は8~23%と報告され、治療をうけても約25%の患者で重大な障害が残る。
臨床症状/臨床経過
・発症時には脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)などの虚血性イベントがみられやすい。
・そのほかに頭痛、進行性の認知機能低下、急性経過あるいは亜急性経過の脳症がみられる。急性経過の意識障害が生じる病歴は特徴的である。
・頭痛は雷鳴頭痛に相当し、1分以内にピークに達する。
・てんかん発作(seizures)、脳内出血、くも膜下出血(SAH)を生じることがある。
・横断性脊髄症や、発熱や体重減少といった全身症状がみられることはあるが、頻度としては多いとはいえない。
検査
・脳の小血管が侵されるため、血管造影所見は典型的には正常である。あくまで診断には脳生検が必要となる。
・病理検査で小血管炎が存在する患者の一部では軟膜下の脳血管にアミロイドβ沈着がみられ、全層性の炎症細胞浸潤がみられる。
・MRI撮像でアミロイドβ関連血管炎ではT2WIで高信号所見がみられる。MRI撮像で所見が得られないことは少ない。
・PACNSのほとんどのケースで髄液検査で異常所見(軽度の多核球上昇, 蛋白上昇など)がみられる。
診断
・PACNSを疑った場合には脳生検が必須となる。
・ランダム生検よりも画像上で異常所見が認められる箇所から組織採取することが望ましい。もしもランダム生検を行う場合には非優位半球における前頭葉で行うと生検による神経学的合併症を生じさせるリスクを最小限にすることができる。
・ただし、脳生検の感度は比較的低く、仮に所見が得られなくてもPACNSの否定はできない。
・脳生検に伴う侵襲性に配慮し、脳血管造影検査を用いることもある。しかし、血管造影検査は生検よりもさらに感度が低い(15~43%)。血管造影検査では分節状狭窄がみられることがある。
鑑別疾患
・主な鑑別診断としては可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)、頭蓋内の中/大血管アテローム性動脈硬化症、血管内リンパ腫、もやもや病、二次性脳血管炎(SLE、RA、SjS、DM、MCTD、IBD,神経サルコイドーシスなどに合併)、全身性血管炎、感染性血管炎(HIV、神経梅毒、HCV、PVB19、ボレリア、結核菌、アスペルギルス、カンジダなど)などが挙げられる。
治療
・主にステロイド、シクロホスファミドが使用される。その他の詳細は割愛する。
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<参考文献>
・Salvarani C, Hunder GG, Brown RD Jr. Primary Central Nervous System Vasculitis. N Engl J Med. 2024 Sep 19;391(11):1028-1037. doi: 10.1056/NEJMra2314942. PMID: 39292929.